グーグルが「モールス信号」を使って文字を入力したり、その入力した文字を音声として読み上げる技術を公開した。
一体なぜ「モールス信号」なのだろう?ニュースを聞いたとき、筆者としては今さら感があった。
モールス信号には、筆者には何となく戦時中というイメージがある。特に映画などで、軍隊が遠隔地で通信する映像をよく見た覚えがある。
現在は、メールやラインなど、伝達通信技術が発達している。モールス信号に回帰する必要性があるのだろうか。
なぜ今「モールス信号」?
今回グーグルがモールス信号による文字入力・読み上げ技術を公開したのは、カリフォルニア州で開かれたIT業界の開発者向けの会議。
公開された技術は、タニア・フィンレイスンさんと夫のケンさんが開発した入力したシステムをベースにしているそうだ。
タニアさんは障碍者で、会話をしたり自由に手足を動かしたりすることができない。
そう、今回公開された技術は、会話などを円滑に行うことができない障碍者のための意思伝達技術なのだ。
今回の会議で、タニアさんが、頭を使って車いすの左右にあるボタンを押して、英語で「こんにちは」などとモールス信号を使って入力し、それが音声として読み上げられるデモンストレーションが披露されたようだ。
障碍者の意思伝達を容易に
今回の技術が障碍者向けのシステムであることを知って思い出したのが、つい先日3月14日に亡くなったスティーブン・ホーキング博士。
ホーキング博士は、大学時代に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、体を自由に動かせなくなった。
しかし晩年は、意思伝達装置を使い、わずかに動く頬の筋肉の動きで意思伝達を行った。
ホーキング博士は病気を発症した後も、研究に情熱を燃やし、宇宙旅行に並々ならぬ興味を示したりと、常人並みかそれ以上の行動力を示した。
体を動かせない障碍者であっても、いや体を動かせないからかもしれないが、健常者かそれ以上のエネルギーや才能を持つ人はいるのだ。
通信技術の発達によって、よりバリアフリーな意思伝達環境が整っていくだろう。
それにしても、モールス信号とは…。
過ぎ去りし技術を最先端の技術を融合させて、新たな可能性が見いだされる。エキサイティングである。
モールス信号とは
モールス信号は、1840年頃に、アメリカのサミュエル・モールスという人が発明したからその名前がついた。
「ツー・ツ・ツ・ツー」のように、長い符号(長点)と短い符号(短点)とを組み合わせて作る符号で構成される信号だ。
なお、モールスは、名門のイェール大学を卒業した秀才で、モールス信号の発明で名が知られる一方、実は絵画でも並々ならぬ才能を発揮していて、むしろ画家が本業であったようだ。
モールス信号の発明のきっかけとなったのも、画家として家から離れた場所で仕事をしている際に、妻が病気で亡くなったことらしい。
遠隔地で仕事をしていて、妻が危篤であるという報告を受け取ったのが遅れたために、妻の死に目に立ち会えなかったことをモールスは悔いていた。そのことが通信技術の発明の意欲につながったようだ。
その一方で、奴隷制度を支持したり、反カトリック主義であったり、反移民であったりと、こういった主義・主張にこだわったため、様々な逸話が残されている。
現代の思想では(そして当時でさえも)大衆から支持されるような人物ではなかったようだが、なかなか興味深い人物であったことは間違いないようだ。
モールス信号は、上述の通り、長点と短点を組み合わせる単純なものなので、習得はそれほど困難ではないようだ。
興味がある方は、勉強してみてはいかがだろうか。
宮崎駿監督が使ったモールス信号
なかなか現代では目にすることが少ないモールス信号だが、宮崎駿監督の作品では、モールス信号が使われるシーンが結構多く出現する。
『風の谷のナウシカ』や『紅の豚』などの作品でもモールス信号を使うシーンがあるが、最も印象的にモールス信号が描かれているのは、『崖の上のポニョ』だろう。
『崖の上のポニョ』のヒーローである宗介が、5歳という年齢でありながら、モールス信号を使って、船上で仕事をする父親と会話するシーンがあるのだ。
ちなみに、このモールス信号を使った会話のシーンでは、会話の内容が字幕で示されているのだが、ちゃんと一致するそうだ。つまり、正しいモールス信号が描かれているらしい。