『創生日記-藤子・F・不二雄SF短篇集①』は、F・不二雄が描いたちょっと大人向けの短編マンガ集です。
以下の作品が収録されています。
「マイ・シェルター」
主人公が飲み屋で最初に言うセリフが「ジ・エンド」というところが、作者の意図していたかどうかは定かではありませんが、この作品のテーマを表しているようで面白いですね。
夢オチに近い内容ですが、現実に起こる可能性のある出来事を鋭く描写しています。
人間の愚かさはあらゆるところで見受けられますが、その最大たるものは、「愚かだと分かっていることをやめられない愚かさ」なのかもしれません。
また、他人がどうにかしてくれる、とか、こんなことが起こるはずがない、という、甘えにも似た、根拠のない希望論を持ちがちなのも人間の特徴です。
「創生日記」
神様になって世界を創造する、という話は、藤子・F・不二雄の作品に多く出てきます。
これもそのうちの1つですね。
「いけにえ」
主人公は助かりましたが、主人公を助けようとしたジャーナリストは気の毒としか言いようがないです。
まあ、メシのタネにしようとしたわけだから自業自得ともいえますが。
報酬が高い仕事は、リスクも高いのです。
「街がいた!!」
なんとも不思議な作品です。
日本語では、「ある」は主に無生物の存在について使われ、「いる」は主に生物の存在について使われます。
この違いは、日本語の一つの特徴であるともいえます。
この作品のタイトルは、「街があった」ではなく、「街がいた」です。
このタイトルをみるだけで、我々日本人は、何かしら奇妙な印象を受けるわけですが、日本語を学んだ外国人にこのニュアンスが分かるでしょうか。
「老年期の終り」
人間社会もしくは種をひとまとまりの生き物としてとらえ、その人間の種が老年期にさしかかっている、という斬新なアイデアを元にした作品です。
「うちの石炭紀」
ゴキブリが人間以上の文明を持つというアイデアです。
面白いですね。
ちなみに、「石炭紀」というのは実在する時代の名称です。
今から約3億5920万年から2億9900万年前までの時期にあたるとされています。
なぜ石炭紀という名称がつけられているかというと、この時代の地層からいっぱい石炭が産出されたからだそうです。
昆虫や両生類が栄えた時代とされていて、ゴキブリの祖先という説のあった「プロトファスマ」が生息していた時代でもあります。
「みどりの守り神」
秀逸な作品で、ドラマ化・映画化されても良さそうな内容です。
設定も優れていますが、なんといっても人間描写が優れています。
「坂口」というキャラの描き方を通じて、著者の人間観察の鋭さを感じます。
この『創世日記』の次の短編集『メフィスト惨歌-藤子・F・不二雄SF短篇集②』にも面白い話が掲載されています。
・秀逸なオチ!『メフィスト惨歌-藤子・F・不二雄SF短篇集②』の書評 ネタバレ注意
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