佐藤優の本は過去に何冊も読んだ。
最近は、あまりにも著者の本の発行頻度が高く過ぎると感じるので、果たして本の質が保てているのか不安になることもある。
本書『メンタルの教科書』もそんな中発行された。なので、正直、内容が薄いのではないか、と危惧していた。だが、予想に反してなかなか面白い本だった。
知識偏重の内容ではなく、どちらかというと著者の考えが色濃く出ている内容である。まあ、佐藤優の本に触れたことがある人なら分かるだろう。
メンタルを保つために「外」と「中」を考える
当たり前の話だが、自分のメンタルを保つためには、自分自身の内面と、自分の周りの環境を考える必要がある。
その点については著者も言及していて、「自分自身の内面を強くすること」と「自分を取り巻く環境を変えること」をメンタルを強くするために必要な2つのこととして挙げている。
著者は自分自身について「ストレス耐性」が高いとしているが、それでもその耐性を超えるようなストレス環境に身を置けば、うつ病などにかかるだろう、と述べている。
つまりは、自分のストレス耐性(閾値)を知ること、そして自分の置かれた環境がその閾値を超えるようなストレスを発生していないかを注視することが重要なのである。
まあ、至極当然のことだ。
それでも、なかなか気づいていない人は多いと思うし、知っていても理解している人は少ないのではないだろうか。
本書のおすすめポイント
本書では、著者が考える「メンタルを保つ方法」を現代社会の状況や神学や哲学、文学の考えを引用しながら説明する。
「情報」という点では、それほど豊富な内容があるわけではない。新しい知見を得る、という観点からすれば、評者としては得るものは少なかったように思う。
また、後半に睡眠の重要性などストレスとの付き合い方に触れる部分があるが、こういう部分などは皮相的な内容に感じた。ストレスと健康に関して類書を読んだことがある人は、このあたりで得るものは少ないだろう。
そういう意味で、「メンタル強化」という本の書名は、いささか疑問が残る。
だが、マスコミや世間一般の常識的な論調とは少し異なる、著者独自の視点に触れることができるという意味で、本書は有用だ。
特に、「個人の責任論」を粉砕し、「社会の構造的な問題」について分かりやすく論じるあたり、個人に焦点を絞ったミクロな観点からの考えとは一線を画す。「あなたは悪くない」的な立場で論ずる。
他にも、いくつかの論点で、他ではなかなか見ない意見を拝見することができた。賛否・是非は別として、刺激になった。
総じていえば、自分のメンタルを強くしたい、という思いで本書を読むと肩透かしを食らう可能性はある。ただし、「社会の構造に歪さに起因する個人のメンタルへの影響、そしてメンタルを保つための社会との付き合い方」という視点で読むと、なかなか面白い。また、読みやすい本なので、一般に広くお勧め。
メンタルの強化書
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