イチローは、2010年のシーズンで、10年連続年間200本安打を達成しました。
100年を超えるメジャーリーグの歴史の中で初の快挙です。その偉業を日本人選手であるイチローが達成したのです。
しかしながら、年間200本安打について、その数字を達成するのがどれだけ難しいのか、いまいちピンとこない人も多いようです。
それでは、純粋に数字だけを見て科学的に検証してみましょう。年間200本安打って、どれだけすごいのでしょうか。
年間200本安打達成選手の数
まず、年間200本安打を達成している選手はどれだけいるのか、調べてみましょう。下記は、イチローがメジャーに挑戦した2001年から2010年までの間に、アメリカン・リーグとナショナル・リーグの両方のリーグで、年間で200本以上ヒット打った選手です(カッコ内の数字は安打数)。
年 | 達成した選手(安打数) | 人数 |
2001 | イチロー(242)、ブレット・ブーン(206)、リッチ・オーリリア(206)、シャノン・スチュアート(202)、フアン・ピエール(202)、アレックス・ロドリゲス(201) | 6人 |
2002 | アルフォンソ・ソリアーノ(209)、イチロー(208)、ブラディミール・ゲレーロ(206)、バーニー・ウィリアムズ(204)、ミゲル・テハーダ(204) | 5人 |
2003 | バーノン・ウェルズ(215)、イチロー(212)、アルバート・プホールズ(212)、テッド・ヘルトン(209)、フアン・ピエール(204)、マイケル・ヤング(204)、ギャレット・アンダーソン(201) | 7人 |
2004 | イチロー(262)、フアン・ピエール(221)、マイケル・ヤング(216)、マーク・ロレッタ(208)、ブラディミール・ゲレーロ(206)、ミゲル・テハーダ(203)、ジャック・ウィルソン(201)、エイドリアン・ベルトレイ(200) | 8人 |
2005 | マイケル・ヤング(221)、イチロー(206)、デレク・ジーター(202) | 3人 |
2006 | イチロー(224)、マイケル・ヤング(217)、デレク・ジーター(214)、ミゲル・テハーダ(214)、フアン・ピエール(204)、チェイス・アトリー(203)、ブラディミール・ゲレーロ(200)、フレディ・サンチェス(200) | 8人 |
2007 | イチロー(238)、マグリオ・オルドネス(216)、マット・ホリデイ(216)、ジミー・ロリンズ(212)、ハンレー・ラミレス(212)、デレク・ジーター(206)、マイケル・ヤング(201)、プラシオ・ポランコ(200) | 8人 |
2008 | イチロー(213)、ダスティン・ペドロイア(213)、ホセ・レイエス(204) | 3人 |
2009 | イチロー(225)、デレク・ジーター(212)、ロビンソン・カノー(204)、ライアン・ブラウン(203) | 4人 |
2010 | イチロー(214)、ロビンソン・カノー(200) | 2人 |
もちろん、2001年から2010年までの10年間を通じて200本安打を達成しているのは、イチローだけです。特に、2004年の262安打は、ジョージ・シスラーの記録(1920年、257安打)を84年ぶりに破って、歴代1位という快挙。
特筆すべきなのは、いずれの年でも、200本安打を達成した選手が最高でも8人だ、ということです。2010年などは、イチローとカノーだけです。カノーのヒットがもし1本でも少なかったら、2010年で200本安打を達成したのはイチローだけになるところでした。それだけ、達成するのが難しい数字なのです。
それをメジャー挑戦以来、10年連続で達成達成したという事実は、マスコミが騒ぐ以上にすごいことなのです。10年連続200本安打という偉業は、控えめに報道されているということはあっても、決して大げさに報道されていることはありません。
年間ホームラン数との比較により割り出す年間200本安打の困難性
年間で200本ものヒットを打つのがどれだけ難しいことなのか。感覚的に理解するため、より慣れ親しんだ指標を使って比較・検証してみましょう。例えば、年間本塁打数と比較してみたら分かりやすいかもしれません。
上記で導き出した、年間200本安打を達成している選手数を年間ホームラン数の上位人数に当てはめてみましょう。こうすることにより、年間200本安打を打つのは、大体年間何本の本塁打を打つくらい難しいのかが分かります。
例えば、2002年に関して見れば、200本安打を達成したのが5人なので、その年の本塁打数の5位にランクインした選手の本塁打数をみます。すると、2002年に本塁打数ランキング第5位にランクインしたのは、ラファエル・パルメイロの43本です。つまり、2002年では、200本安打を打つ困難性(希少性)は、ホームランを43本打つのと同等だ、ということです。
年 | 200本安打を達成した人数 | 年間本塁打数上位者のうち、左記人数が達成した本塁打数 |
2001 | 6人 | 49本 |
2002 | 5人 | 43本 |
2003 | 7人 | 42本 |
2004 | 8人 | 41本 |
2005 | 3人 | 47本 |
2006 | 8人 | 42本 |
2007 | 8人 | 35本 |
2008 | 3人 | 38本 |
2009 | 4人 | 44本 |
2010 | 2人 | 42本 |
上の表によると、2001年から2010年までの期間で見ると、
年間で200本安打を打つのは、大体年間でホームランを42.3本(!!)打つくらい困難
であることが分かります(暇な方はご自身で計算してみてくださいね)。そして、この10年間全ての年でホームランを42本打った選手は皆無です。
もちろん、打席数の違いなどもありますので、安打数と本塁打数は一概には比較できません。それでも、上記の比較は、年間200本安打を打つのがどれだけ困難かを示す、ある程度の指標となるのではないでしょうか。ちなみに、ホームラン数も安打数に含まれます。
選手の能力を測る上での安打数の重要性
安打数は、打率のように、基本的に打数が少ないほど有利になる指標ではありません。それに、多くの安打を打つためには、多くの試合に出る必要もあり、結果、試合に出続けるだけのコンディショニングの良さなども要求されます。
基本的に、打者はヒットを打つのが目的です。それでも、上記の理由から、年間で200本安打を打つのは、毎年数人しか達成できないほど難しいのです。
考えてみれば、本塁打数の記録は語られるのに、安打数の記録が語られないのはおかしな話です。本塁打は、誤解を恐れずに言えば、走れもしない腹の出た巨漢が力任せに打っても達成できます(もちろん、それほど単純ではないのは承知しています)。本塁打数は、その派手さがクローズアップされた、ある意味エンターテイメント性が強調された指標だと考えることもできるのではないでしょうか。
安打数は、本塁打数も含む、打者としての総合力が示される数字です。なぜならば、力だけではなく、打撃技術や脚力を含めた打者としての総合力が安打数に反映されるからです。そして、体調管理を含めたコンディショニングが良くなければならず、試合にコンスタントに出場する体力もなければなりません。安打数は、本塁打数ほどの華やかさはありませんが、コツコツと地道な努力と研鑽を積み重ねた結果だと思います。
つまりは、本塁打数とともに、いや本塁打数以上に、安打数も本来注目されるべき指標なのです。
もちろん、本塁打の重要性を軽視しているわけではありません。しかしながら、打者のトータルな能力をより適正に表した指標である安打数も、当然クローズアップされるべき指標であることは確かだと思います。
イチローの功績
イチローの功績は、もちろん素晴らしい記録を続々樹立していることもあります。特に、年間最多安打記録や10年連続200本安打のように、100年以上の歴史を持つメジャーリーグで、新記録を樹立したことは、偉業です。メジャーでの新記録を日本人であるイチローが作った、というのは、我々日本人にとっても誇らしいものです。
しかし、上記以外にも、目立ちませんが無視できない功績があります。それは、アベレージヒッター(コンタクトヒッター)の価値を再確認させたことです。
考えてみてください。イチローが活躍するまで、安打数を気にする人は現在ほどいたでしょうか。歴代本塁打数を知っている人は多いけれど、歴代安打数を知っている人は少ないようです。現地アメリカでも、ジョージ・シスラーの名前をイチローの偉業によって知った人が多いと聞きます。
日本でも、イチローが活躍するまで、張本勲の功績を知っていた人は、野球ファンを除いて皆無に近いでしょう。そういう過去の偉大なスポーツ選手の価値、安打製造機の価値を再確認させたこともイチローの功績として無視することはできません。
追記:
イチローがついにメジャー通算3000本安打を達成した。詳細は、祝!イチローがメジャー通算3000本安打達成!を参照。