今や小麦は私たちの生活に欠かせません。
パンは言うに及ばず、うどんやラーメンなどの麺類にも使われる、とても大事な食糧です。
しかし、この小麦が「毒」にもなりうることをご存知ですか。時には死にも至る恐ろしい毒に…。
麦角とは何か
今回の話は、小麦自体が猛毒になる、ということではありません。
小麦の穂に「麦角菌(ばっかくきん)」と呼ばれる菌が寄生すると、長さ数センチほどの紫黒色をした「麦角(ばっかく)」と呼ばれる菌核を作ります。
この麦角が猛毒なのです。
実際、古代ローマ時代や、中世ヨーロッパでは、麦角による中毒で多数の死者が出たこともあるようです。
麦角アルカロイドとは何か
麦角は、アルカロイドを含みます。
アルカロイドとは、天然由来の有機化合物の総称です。窒素原子を含み、ほとんどの場合、塩基性を示します。
微生物や菌類、植物、両生類など、さまざまな生物によって生産され、他の生物にとっては毒にもなり、薬にもなり得るものです。
アルカロイドで有名なものに、風邪薬などに含まれる「コデイン」、麻酔薬の「コカイン」、鎮痛剤の「モルヒネ」などがあります。
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そして、麦角のアルカロイドのことを「麦角アルカロイド」といいます。
麦角アルカロイドは、麦角中毒を引き起こすと人体に毒ですが、その一方で医療でも使用されており「アドレナリン作動薬」、「血管拡張」、「高血圧治療」、「陣痛誘発剤」などで使われます。
また、後述するように、幻覚剤LSDにも使われます。
麦角の研究で幻覚剤LSDが誕生
幻覚剤として有名な LSD は、麦角から取り出した成分から、スイスのサンド社(現ノバルティス)によって作られました。
合成に成功したのは、スイスの科学者アルバート(アルベルト)・ホフマン。
ホフマンは、麦角を研究している際に、奇妙な感覚に襲われたそうです。
極めて刺激的で一連の幻想を伴ったが、あまり不快ではない酩酊状態だった、とホフマンは記録しています。
こうして偶然見つかった成分をもとに LSD が作られたわけです。