日本では、「病は気から」という表現がある。
病気のことばかりを心配していると本当に病気になる、といった意味で使われる。
もちろん、これは科学的な検証に基づいた言葉ではないが、結構その通りだと思う人も多いのではないだろうか(だからこそ、広く膾炙している)。
ジョー・マーチャント著『「病は気から」を科学する』は、こういった「精神が体に及ぼす影響」について考察した本である。
知識や情報の価値の変遷を俯瞰する良書
本書では、健康について、「心」と「体」を二元論で語るのではなく、両者が相互に影響しあうということを様々な病気や症状について検証する。
著者であるジョー・マーチャントが科学ジャーナリストであるため、著者自身の研究成果を紹介しているわけではなく、あくまで様々な医療分野の第一人者にインタビューするという形で構成されている。
そのため、詳細なデータなどは紹介されておらず、主張に根拠に乏しい面もある。それでも、ある問題について、肯定意見と反対意見の両方を紹介した上で著者の考えを述べるなど、ジャーナリズムの観点から良識のある内容となっている。
プラセボから催眠、慢性疲労症候群からマインドフルネスに至るまで、およそ現代において大半の人を苦しめる病や治療について考察しており、内容的にかなりのボリュームでありながら、うまくまとめ上げられている。
学術的な観点のみならず、現代病に苦しめられている人にも、何らかのヒントになるような話も収録されている。特に、ストレスについては、多くの人が避けて通れないトピックであり、自覚症状がない人にとっても有用な内容であると思う。
残念なのは、索引がないこと。邦訳版で削られたのか、原著にそもそもついていないのか分からないが、この点については残念だ。
「病は気から」を科学する
他の本も紹介しています。
⇒「カンタ書評」へ